「殺さないよ」から始まる君たちへの懺悔 ー牛編ー

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「殺さないよ」
 僕が言うと、ウシは深い鼻息を漏らした。
「だって、僕はただのトラック運転手。親方に言われて、君を運んでいるだけの男」
 そう、僕は君を殺さない、殺せない。けれどもこれは、責任転嫁だろうか。
 責任転嫁。誰への?親方への?
 僕の中で、何かが降り積もっていく。どす黒い、何かが。
 ブフゥ。声、だか、息、だかが聞こえて後ろにある小窓を振り返ると、ウシがこちらを見ていた。
「世界は、美しいよね」
 とウシは言った。
「そうかな」
 と答えたそれは、僕の本音だった。
「牛乳は好き?」
「うん」
「ステーキは?」
「……うん」
 頷きで返した僕の声は、とても小さくなっていた。
「仲間に挨拶してこなかったな」
 別れの挨拶。それをしてこなかったと。
「そうかい。ごめんよ、急かしてしまって」
 それを最後に小窓に取り付けたカーテンを閉め切った僕は、とても怖がりでちっぽけな人間だった。
公開:26/02/05 17:31

さがやま なつき( 鹿児島 )

2021年7月初投稿。お話の主人公は男性(もしくは少年)が多め。女性はキャラ作りが苦手です。(口調が書けない)

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