蝉に向けて

0
1

 幹にしがみつき、腹を震わせ響かせる。呼応して連なり、音が膨らんだ。立ち並ぶ木々に反響し、街を包む。

 小さく、混ざる。
 枝が絡む、塞いだ窓の隙間を縫って。

 湿った畳に仰向けでいた。唇は裂け、肌は乾いている。充血した眼が明滅する蛍光灯を映していた。周囲に菓子箱が散らばり、ペットボトルが転がっている。

 尻の下は茶色に滲み、色を変えていた。短い指を動かし、伸びた爪で畳を掻く。褪せた黄色いシャツに皺が寄り、描かれたヒーローが歪んだ。

 外から伝い、耳に届く。聞いたことのある高い声。皆、笑い合っている。残響を残し、ゆっくり遠ざかっていく。

 喉を鳴らし、口から零れた。かすれ、しゃがれた音が。

 瞼が、降りる。

 ドアの前で女が手を振った。微笑みながらノブを掴む。重く軋んだ鉄が響いて。

 しがみついた脚が外れた。
 腹を震わせ、地に向かう。

 ────混ざることは、ない。
その他
公開:26/06/26 18:36
更新:26/06/29 19:06
ネグレクト

shige5964

哲学的な掌編を書いています。基本Show Dont Tellです。文章にAIを一切使用していません。画像はAIです。ブログに作品を置いてますので、ご興味があればこちらも是非。
https://baseman0406.blogspot.com/?m=1

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容