14
195

私は壁の額縁の積もった埃に先刻気がついた。寝室のポスターを替えるのは妻の担当だったからだ。額を外した壁には、同じ大きさの穴が空いていた。
中に漆色の瞳が見え、伸びた幼い指に掴まれ引きずり込まれた。奥には水が溜まり、出会った頃の妻の脛が濡髪の間に浮いて招くと、先には横たわる生きた妻が唇を開いて待っていた。金を溶かす様に侵入する。妻は喉を鳴らして吸った息を意味を成さぬ声で吐いた。存分に体の熱を交換し合うと陶然とした眼で私を導いた。そこは暗い部屋だった。土の匂い。老いた妻が立っていた。近寄り手を取って口づけると初めての時と同じ様に互いの体の境が消えた。
部屋の窓が明るい。外は緑と黄色の花の庭だった。私はドアを開けて部屋から出た。
寝室の壁の前にいた。手にはポスターがあった。穴のあった場所には妻の残した言葉があったが、すぐに潤んで見えなくなった。それで私は、初めて全身が崩れるまで泣くことができた。
その他
公開:18/07/18 02:39
更新:18/07/18 10:41

北澤奇実

慌てて書きましたが、七夕祭りに間に合いました!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容