蔵の夢

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 嫁に行ったはずの従姉妹が、庭外れの蔵の中で首を縊って死んでいた。
 夢なものだから、暗い蔵の中も妙に明るく、ぎぃぎぃ揺れる従姉妹が着ている着物の柄も良く見えた。
 首吊りの死体は汚いと言うが、従姉妹の美しさは生前と変わらず、薄く開いた唇から僅かに覗く舌が艶めかしかった。
 好いた相手に嫁入りしたが、本来は本家を継いで婿を取る筈で、分家の手に届く人ではない。ただ、夢に見るほど好いていたのかと、初めて自覚した。
 柱に結ばれた、縄の結び目を解く。とさりと、巣から零れた雛鳥の軽さで、彼女の体は床に落ちた。
 何故か、自分は桜桃を持っていた。
 茎に結ばれた一対の片方を口に含み、彼女の唇に舌でねじ込む。赤い丸い実は抵抗もなく彼女の口中に収まって、夢の自分はそれだけで満足した。
 数年後、放置されていた本家の蔵が倒壊したと聞いた。
 なんでも床下から生えてきた桜の木に、突き崩されてしまったそうだ。
ホラー
公開:18/07/05 17:00
更新:18/07/05 15:03

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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