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 友人が旅に出るというので、見送りに来たら、橋の袂のベンチに腰掛け、眩しそうに目を瞬かせていた。
 お花をどうぞ。彼の足下には様々な花で埋め尽くされており、私は持参した百合の花束をその群に加えた。
 同居の方は。問いに対して、彼はゆるゆると首を横に振る。
 どうにも別れがたいみたいでね。見送りも辛そうなので、眠っている間に出てきました。
 本当に辛いのはあなたの方では、と、言いかけて口を噤むが、それすらも察した様子で彼は真っ白な眉尻を少し下げた。
 どうせすぐ戻りますからね、今度はもう少し、洒落た服にしましょうか。そんなことを嘯きながら彼は座っていたベンチから、タッと飛び降りた。
 さわさわと長い髭を揺らし、私の脛の辺りに体を擦り付けながらくるんと一周してから。
 友人の飼い猫は、虹の橋をとことこと上って行く。
 振り返らない代わりに、自慢の尻尾をふおんと揺らしてそのまま、行ってしまった。
ファンタジー
公開:18/07/06 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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