ショートショート前線の田丸先生

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「ここが最前線です」田丸先生は青色の旗の下で言った。「まずは腕立て500回ですね」私は泣きそうになった。そこは鉄工所にも計算表にも浜茶屋にも見えた。月が鋳造され、雲が綿アメになっていた。
「敵は長編小説なんですか?」訊くと先生は首を横に振った。「では日常?」「日常は還る場所です」と先生は言った。「ぼくに敵は居ません」
戦端が開かれた。私は根元の青い大根を抜刀し、迫撃砲から海色の壜が射出された。
版図は拡大し辺りは潮の匂いが立ち込めた。先生は身綺麗になったチェ・ゲバラみたいに夢巻をくわえていた。さすが海辺の男と思った。
「一本どうです?」勧められるままに、どんな夢が見えるのかと思って火を付けてもらった。すると視界の全てが果てしない渦巻きの様になり目眩がした。「ごめんなさい。それは喫煙用じゃなかったですね」
「これは何を巻いているんですか?」私が訊くと先生は悪戯っぽく答えた。「夢巻の草稿です」
ファンタジー
公開:18/07/03 00:46
更新:20/02/13 09:31

北澤奇実

慌てて書きましたが、七夕祭りに間に合いました!

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