結び目

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 最後のデートはスクランブル交差点が良い。
 郷里に戻る彼女の希望で出かけた渋谷は相変わらずの人・人・人で、観光客が物珍しそうに僕らの日常を眺めている。
「人、多いねぇ」
 赤信号を待つ暗黙の沈黙を破り、当たり前すぎることを彼女が呟く。
 東京に暮らして五年、人なんかもう珍しくもないだろうに。
「毎日がお祭りだね」
 彼女が、きゅ、と僕の手を握る。
 賑やかなことが大好きな癖に、あんな寂しい土地に帰るなんて、僕は納得していない。
 それを証拠に、今日は一言も喋ってない……元々が無口なので、この抗議は気付かれてもないのだが。
 信号が青になると同時、繋いだ手のまま彼女が交差点の中央に駆けだした。
「この交差点大好き。人生って人の後ろに伸びるでしょそれがこんなに沢山重なる所で」
 真ん中で足を止め、振り返り。
「君と私の人生の、結び目を作りたかったの」
 泣き笑いの顔で、彼女が僕にキスをした。
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公開:18/07/01 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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