赤いダイヤ

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 今年は小豆の出来が極端に悪い。
 慶事専門の和菓子屋にとって、大打撃だ。
 いつかに不作でも赤いダイヤの異名で投資家を沸かせたが、売買する現物がない今回はそれ以上だ。
 あちらの伝手こちらの縁、あらゆる手段を講じても、来年の材料を確保できない。
 もう店を閉めるしかと落胆していたら、モザンビークから拙い日本語でメールが届いた。
『赤いダイヤ、あります。たくさん。おもちおいしい。よいします』
 藁にも縋る思いで、片言の英語で遣り取りをしてみれば、うちで買ったぼたもちの美味さに感動したので、予想外に採れた小豆を、適価で譲りたいという。
 申し出に甘えたら本物が、鑑定書付の上質の赤ダイヤが、送られてきた。
 食べれない。どうしよう。
 苦悩しながら指先で、小豆大のダイヤを転がしていて、ふと閃いた……。

 真っ白な、甘い餅の上に一粒、赤ダイヤを乗せた新作の祝い餅は、母乳の出がよくなると好評だ。
その他
公開:18/07/02 17:00
更新:18/07/02 15:05

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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