炭酸ジュースボックスでJAZZを

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 近所のバーに最新の音響機器が導入されたと聞いて、早速冷やかしに出かけた。
 いつもなら、素人に毛が生えた地元の楽団が陣取るステージに、少女が一人、小さな椅子に座っている。
 最新型のアンドロイドで、最高品質の最高傑作さと、禿頭のマスターが自慢げにグラスと頭を光らせた。
 どうやって演奏を?
 自販機からなんか買って彼女に飲ませてみれば解る。間違ってもラッパ飲みなんかさせるなよ、お上品に、ストローでだ。
 細かい指示に、へいへいと適当に返事し、レトロな瓶ジュースの自販機からジンジャーエールを選ぶ。
 据え付けの栓抜きで王冠を外し、ストローを指して差し出すと、少女は機械とは思えない滑らかな動作で瓶を受け取り、すぅ、と中身を吸い込んだ。
 途端、喉から溢れ出す歌声は、ボサノヴァの名曲「イパネマの娘」。
 こくこくとジュースを飲む、彼女の手から足から胸から、ありとあらゆる楽器の音が、溢れ出した。
SF
公開:18/06/25 19:18
更新:18/06/26 05:31
炭酸JAZZ

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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