するめ

　ギャンブル好きの友人から、食事の誘いがあった。
　好きと言っても完全な片思い、馬も艇も宝くじも、何一つとして勝てた試しのない金欠男が奢ると言う、天変地異の前触れかと思いはしたが、人の金で食う焼き肉ほど美味いものはない。
　待ち合わせ場所に現れた友人は、小洒落た縦縞のスーツの袖を大げさに捲り、金の腕時計で自慢げに時間を確認してみている。
「よーし、時間ぴったりだ。うちのお抱え運転手はいい仕事をするなぁ」
　満足げな口元には葉巻……ならぬ、スルメの足が咥えられ、咀嚼に合わせて上下に揺れている。
　スルメはスルから縁起が悪いと敬遠していたのに。
「すげぇ開運グッズ見つけてさ、そいつのおかげで何から何まで大当り、おかげで今度は当たらないようにスル必要が」
　得意げな弁舌にスルメが口から落ちた途端、友人は大型トラックの当たりをくらい、空を飛んだ。
　どんな開運グッズを使ってたのかは、聞きそびれた。