初めての夢

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 電車の中でいつの間にか、スカートの上に薔薇色の夢が落ちていた。
 立ったまま寝てた人でも居たのか器用だなと思いながら、軽く払うふりで掌の中に隠す。今夜の夜食が手に入った。
 帰宅し、早速拾った夢を口に含んで横になると、すぐに溶け出してきた。
 何処までも続く、らせん階段の夢だ。
 桃色の壁、ベージュの手摺り、頭上の光に向かって伸びるらせん階段を、こつこつ、かつと靴音を楽しみながらひたすら昇る。
 一足毎に胸が躍る、この先に何があるのか、明るく楽しい気持ちで一杯になって足取りも軽い。
 ふと、壁の向こうから声がすることに気付いた。
『――、ね』
 よくよく耳を澄ます。女性の声だ。
『いい子だね、早く、会いたいね』
 私もと、光に向かって声を上げて気付く。
 これは、これから生まれる胎児の夢か。
 大丈夫、と、頷いて手摺を掴んで大きく手を振った。
 貘が食べた夢は、叶うようになっているのだ。
ファンタジー
公開:18/06/26 17:00
更新:18/06/26 13:22

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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