誰かの夢

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 道に落ちてる夢を食べちゃいけません。
 祖母に耳にたこが出来る程言い聞かせられていても、あんまり美味しそうだとつい、手が伸びてしまう。
 だいたい、荒唐無稽な夢しか食べちゃいけないなんて、時代錯誤だ。
 電車の座席にちんまりと青い夢が残っていて、こっそりと口に運ぶ。思った通りのソーダ味、この甘さは子供の夢だ。
 去年の海水浴、空に白い入道雲、口の中の塩辛さを西瓜で洗ってまた海に飛び込む。何処までも遠い青、吐く息があぶくになって水面の太陽に吸い込まれる様まで体験できて、目を瞑ったまま笑みが溢れた。
 最寄り駅を告げるアナウンスに、目を開く。
 夢の潮騒は頭からさぁぁとあふれ出て、乗客の幾人かは、くるぶしを撫でる波の感触に慌てて足下を確認しているが、夢はもうどこかへ消えてしまっている。
 満足に一つ、息を吐く。
 この子は今年も海に行けるだろう。
 貘が食べた夢は、叶うようになっているのだ。
ファンタジー
公開:18/06/25 17:00
更新:18/06/25 11:04

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。
「関西作家志望者集う会」所属。
プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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