とんぼとり

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 ギヤマンヤンマの季節になった。
 この名前は、いつも舌を噛みそうになる。
 ギヤマンヤンマはその名の通り、眼鏡がギヤマンで出来ていて、もいだ首を水に浸けて一晩おけば、あとに目玉の硝子だけ残る。
 昔は首のまま糸に連ねて首飾りにし、古墳の副葬品として出土することもあるらしい。
 とはいえ、今はギヤマンヤンマを採ろうというのは子供くらいだ。
 おままごとの食器に丁度良いサイズらしく、オニヤンマ、アキアカネの間、短い期間に湧くギヤマンヤンマを得ようとするのは女子が多い。
 妹に連れられて、穴場だという沢にやってきた。
 目の色、大きさで希少性が決まり、妹は大きな青が欲しいらしい。
 ギヤマンヤンマには、火を見ると飛び込む妙な習性があり、火を焚けば簡単に捕まえることができた。
「緑、緑、また緑」
 妹は唇を尖らせながら、トンボを叩き落としている。
 岩に落ちたトンボは、硝子の砕ける音を立ててる。
公開:18/06/23 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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