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彼女はその静かな絵が好きだった。いつも見ていたので、目を閉じると絵がはっきり浮かぶ程だった。
その年、隣の国の軍隊がやって来た。皆は花を投げて迎えた。家に帰ると父母と姉が暗い顔をしていた。彼女は目を閉じてあの絵を想った。
ある日、一家は貨車で移動した。目的地には鉄条網と臭いがあった。彼女は髪を刈られ労役を与えられた。煙る空の下で悲鳴が聞こえる日々が始まった。やがて彼女の家族は骨と皮の玩具の様に穴に棄てられた。彼女は目を閉じて絵を想う間、死から遠ざかる事ができた。

ある日、別の軍隊がやってきて彼女をそこから連れ出した。自分の足で外を歩くのに何日もかかった。
街でまたあの絵を見た。絵は静謐で鮮やかなままだった。それで彼女は結婚し子を生んだ。

今日、彼女は百歳になった。子や孫が集まって口々に「おめでとう」を言う。彼女は目を閉じてそれを聞いた。絵が浮かんだ。すると父母と姉の声も小さく聞こえた。
その他
公開:18/08/20 01:03
更新:18/08/30 01:45
OBERÖSTERREICHISCHES BAUERNHAUS Wien Anschluss

北澤奇実

慌てて書きましたが、七夕祭りに間に合いました!

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