恵みの宿る家

おや、めずらしい。
人が来たのは久しぶりなので、驚きました。

ほう……「王」を探している？
この森に、お城なんてありませんよ。
あるのは、私の家だけ。そこに見えるのがそうです。
王さまのような高貴な方は、いらっしゃいませんよ。

ここにいると聞いてきた、ですって？
それなら、家の中をご覧に入れますね。
私のほかに誰もいないのが、分かると思いますから。

──ね？　納得されました？

あぁ、その穂が気になりましたか。小麦ですよ。
今年刈り取った麦の、最後の一束でしてね。
来年も豊作になりますように、って祀るんですよ。
このあたりの風習なんです。

……お帰りになりますか。
ご期待に添えず恐縮ですが、見ての通りの農家ですので。
帰り道、お気をつけて。

ふぅ……誰に聞いてきたのやら。
でもまぁ、穀物の王たる私を探しているとは、不思議な人間ですね。
ふふ、来年も豊作にしてあげるとしましょうか。