きおくの絵の具

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展覧会。
その絵の前で、
私はひとつ、ため息をついた。

すると、どうだろう。
次の瞬間、私は絵画の中にいた。

「やあ。どこからきたのだい?」

白い髭の老人は、
鋤を片手に笑顔を向けた。

「少しお茶でもいかがかな?
君の話を聞かせてはくれまいか?」

私は招き入れられるがまま、
絵画の家でお茶をいただく。


出されたお茶を口にすると、
記憶が不思議と溢れ出てくる。

私は身の上話をしながら、
お茶をゆっくり飲み干した。

老人の眩しい笑顔が、
少し大きく見えた気がした。

話は過去に遡り、
お茶を飲むほど鮮やかに、
私の記憶はよみがえり。

すっかり話し終わった頃。

私の体は
石のように動かなくなった。

あのご老人の満面の笑みが
目の前いっぱい、視界を遮る。

「さて、今回はと。
臙脂色とは、珍しい。」

ひと筆の
絵の具と成った私を手に取り、
老人は、絵画を私で彩ったのだ。
ファンタジー
公開:18/08/10 21:55
更新:18/08/10 22:00

やまのまや( 東京 )

心が切なくなる物語が好きです
幸せの余韻が残る物語が好きです
身近なのに「あ!」となる物語が好きです
そして時々、背筋がぞわ!っとする物語も素敵です

そんな物語を、読むのも書くのも大好きです(^^)

この400文字の中に、削って削って詰め込む快感♪ たまりません♪
そして。
世界の幸いが、物語の中にあらわれることのできますよう

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