原初の海

　とある科学者が、原初の海の再生に成功した。
　三十センチ四方の硝子容器に込められたどろりと青い液体の中、顕微鏡でなければ確認できないカンブリア紀の生物たちが泳ぎ回っている。
　この小さな生物を、適した環境に置き、適した刺激を与え、適した経過で進化を見守れば、何れ世界の偉人に会えるというのだ。
　発明王、悲劇の王妃、紀元前の哲学者、そう、預言者や目覚めた人、神の子までも再生が可能とあって、人類は期待に浮き立つ。
　それには資金が必要です。科学者の請うまま、あらゆる国が企業が宗教団体が、莫大な研究費用に資金を投じた。
　太陽、月、惑星、星に影響を与える全てと地球、全く同じ組成のミニチュアを3Dプリンターで作り、半重力装置内に浮かべて、十数年。
　投資した者達が偉人はまだかとせっつく中、科学者は言った。
「カンブリアンモンスターから創めたので。5億2200年後に人類が誕生するまでお待ち下さい」