『うしおに』

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「月の赤い晩には海の妖”うしおに”が出よる」
旅の宿をと訪ねた漁村で若侍はそんな話を聞いた。
「なに、妖など恐るるに足らぬ」
そう豪語して若侍は独り浜辺へと出た。

海は静かだった。赤黒い月だけが不気味に水面を照らしている。
妖など出ないではないか。
そう若侍が思った時だった。俄に潮の香りが強くなった。
来たか、と若侍は身構え鯉口を切る。
海面が盛り上がり姿を表したのは、黒々と巨大な、海鼠か芋虫を思わせる怪物であった。
「やあぁぁ!」
気合一閃、白刃が弧を描いた。
が、僅かな手応えを残し刀は相手の身体を抜けた。
体勢が崩れた隙を逃さず、妖がのし掛かってくる。若侍の身体が妖にすっぽりと包まれた。
なんと、これは海水。
若侍が悟ったときには、既に肺腑の奥まで海水に満たされていた。
なるほど、”うしおに”とは海に似似た紛い物”潮似”の意であったか。
若侍は薄れゆく意識の中でそう思った。
ホラー
公開:18/05/14 19:50
更新:18/05/14 20:11

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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