『戦場カメラマン』

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僕の元にある一葉の笑顔の写真。
これは、僕にとって唯一の子供の頃の写真だ。
これを撮ったのは日本人の戦場カメラマン。その頃の僕にとって、日本の知識は戦争がない国ということだけだった。
そう、僕の住んでいた町は戦場だった。

カメラを向けた彼は言った。
「さあ、笑って。笑う門には福来る」
それは日本の諺で笑っていれば幸せはやって来るという意味らしい。笑うことをすっかり忘れてしまっていた僕に、彼は笑顔になる呪文を教えてくれた。

僕が大人になって漸く戦争は終結した。
そして僕は彼を追って戦場カメラマンになった。
彼と同じ、「笑う門には福来る」ことを伝えるためのカメラマンに。

今、向けたファインダーの向こうで子供達がちょっと緊張しながら並んでいる。ここで最高の笑顔を作り出すのも僕の仕事。僕は撮影前に子供達にあの笑顔を作る日本語の呪文を教えている。
「さあ、撮るよ。いちたすいちは」
「にぃぃ!」
その他
公開:18/04/05 22:04

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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