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 伯父は若い頃、あまりよくない付き合いがあったらしい。
 体のあちこちに傷があり、指もいくつか欠けている、特にひどいのは薬指で、どちらも根元からぽきりと折ったようになくなっていた。
 けれど、私の知っている彼は物静かで人当たりはよく、木陰で本を読んでいる姿が印象的な穏やかな人だった。
 その伯父がなくなったので、葬儀を執り行った。
 弔問客の多くは年配の女性で、言葉少なく見送ってくれた。
 火葬場には家族だけが残り、薄茶に燃え残った伯父だった残骸を、斎場の係員が長い金属製の火箸で示してくれる。
 燃された名残の熱を上げる、事故の傷の残る大腿骨、手術で入れたというプレートの残った頭蓋骨を砕き、これは喉の、くるぶしのと、かろんかろんと骨壺に納めていく。
「きれいに残っていますね、これは薬指です」
 真っ白な珊瑚のような、ないはずの骨。
 それは銀色の箸が持ち上げた途端に砕け、砂になって崩れた。
ホラー
公開:18/06/21 17:00
更新:18/06/21 07:04

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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