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ある店がパンの繁殖に成功した。
小麦を育て、収穫し、粉にして、練って、焼いて。そんな手順をまるっと無視して、パンがパンを生むのだ、画期的だ。
小さな店は瞬く間に会社になり、あちこちにパン牧場を開いた。
外はカリカリ、中はふっくら、絞めたばかりの温かなパンと珈琲の組み合わせは格別だ。
製法は勿論極秘、社員は全員、念書を書かされる。
ある日、飼育場に新入社員が応援に入った。
防護服を着せられ、消毒室を経由し、窓一つない牧場内に足を踏み入れる……中の照明は赤い。
「何、赤い光の中ならあいつらも何も見えないから、おとなしいもんさ」
先輩が笑いながら、ペンチを渡してくれる。
「それで歯を残さず引っこ抜いてくれ」
歯? パンに? 聞き直す暇は与えられず、孵化室と表示された扉が開いた。
生まれたてのパン達が、割れ目の縁に生やした白い歯をガチガチと鳴らしながら、互いを喰らいあっていた。
小麦を育て、収穫し、粉にして、練って、焼いて。そんな手順をまるっと無視して、パンがパンを生むのだ、画期的だ。
小さな店は瞬く間に会社になり、あちこちにパン牧場を開いた。
外はカリカリ、中はふっくら、絞めたばかりの温かなパンと珈琲の組み合わせは格別だ。
製法は勿論極秘、社員は全員、念書を書かされる。
ある日、飼育場に新入社員が応援に入った。
防護服を着せられ、消毒室を経由し、窓一つない牧場内に足を踏み入れる……中の照明は赤い。
「何、赤い光の中ならあいつらも何も見えないから、おとなしいもんさ」
先輩が笑いながら、ペンチを渡してくれる。
「それで歯を残さず引っこ抜いてくれ」
歯? パンに? 聞き直す暇は与えられず、孵化室と表示された扉が開いた。
生まれたてのパン達が、割れ目の縁に生やした白い歯をガチガチと鳴らしながら、互いを喰らいあっていた。
SF
公開:18/06/19 17:00
更新:18/06/18 09:39
更新:18/06/18 09:39
幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。
プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。
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