8月後半の泥棒

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 夏の終わりは、青いサイダーの気配がする。
 海水浴場のバイトのおじさんの言だ。無精ひげの浮いた顔に似合わぬリリカルな表現に、なんだそれ、と、貰ったラムネをちびちびと舐める。
 盆を過ぎたらくらげが増える。海水浴客は減る。
 未だに海にやってくるのは、休みの調整が付かなかったけれども海を諦めきれない人か、砂浜のスポーツに興じる客だ。
 海の家も、前は夏休みの終わりを待たずに早々に店じまいをしていたものだが、細々とでも客がいる限りと、だらだらと営業している。
 親戚の家でのバイトは、期間が長引くほどにお小遣いが増えていいのだけれども。
 7月にふらりと居着いたこのおっさんは、夏が過ぎたらどうするんだろうか。
 どこから来たのか聞いたときに、悪い大人だからねぇと返事にならない返事ではぐらかされた。
 悪い大人なら。泥棒だったらいいと思ってる。
 私を掠っていってくれる、泥棒だったらいいのに。
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公開:18/06/15 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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