郵便ポストが赤いのは

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 もっと、甘いものが食べたい。
 円筒形の真っ赤な寸胴、昭和レトロと持て囃されて、半ば世紀の遺物扱いされている旧式のポストは、そんな我が侭を宣う付喪神と化しても、撤去されることはない。
 昔は甘酸っぱい初恋を認めたり、離れた家族を心配したり、甘くて優しい手紙が多かったのに、最近はDMばっかり。
 不満を漏らすポストに、気晴らしにどうだと煙草を勧めても、万が一、恋文が来たらヤニ臭くなるからと断る……文句の割に前向きな姿勢に、一肌脱いでやろうと言う気になる。
 そんなわけで、SNSで一つの噂を流した。
 白いレターセットに緑のペンで『自分宛に』好きな人への想いを赤いポストから投函すると、両思いになれる、という。まぁ、嘘だ。
 如何にメールやネットが隆盛でも、年頃の女子はおまじないが好きだ。
 数日後、手紙が届いた。ポストからだ。
 甘いもの食べすぎて、胸焼けがするとある。そんなことまで知るか。
ファンタジー
公開:18/06/14 17:00
更新:18/06/12 12:37

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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