エンジェルウィング

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 三連徹に疲れ果てて、見上げたビルの窓に『マッサージ・天使の羽根』とあった。
 一つ、解して貰うかと足を向ける。
 初めてなので、力の強い人をと頼み、細いが半袖から覗く筋肉のしっかりした青年がついてくれることとなった。
「どうぞ羽を伸ばして下さいね」
 凝り固まった背中を、力強い手がぐいぐいと揉みほぐしていく。
「お疲れですねぇ……この固さだと4枚……いや、6枚羽根かな?」
 よく解らない感心に、「そうですねぇ」と生返事をする。
 施術が終わった後、ぼーっとしていると、お帰りはこちらと上がりの階段に案内された。
 促されるままに進めば、柵も何もない屋上に行き着く。
「お疲れ様でした、地上にお越しの際はまたご利用下さいませ」
 そのまま肩を押され、落ちる。寸前、身を捻って屋上を見れば、体の前に手を組んだ店員が、深々とお辞儀で見送っていた。
 背中が軽い、羽根のようだ、そうだった、自分は――。
ファンタジー
公開:18/06/13 17:00
更新:18/06/12 09:40

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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