運試しコッペパン

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 毎日行く手を横切る黒猫や、頻繁に切れるスニーカーのシューズ、不運の日常茶飯事に、落ち込むことこの上ない。
「それじゃぁ」
 陸上部のマネージャーが、売れ残りのコッペパンを二つ並べてこう言った。
「これに苺ジャムと梅ジャム塗るからね。当たったらラッキーってことで」
 軽く裂いたパンにどちらも赤いジャムを挟み、さぁどうぞと勧められる。
「ちなみに苺ジャムなら、春の大会で優勝ね」
 そう言われて、緊張せざるを得ない。三十分は悩んで、口に運ぶのに十分かかって、食べた一口は甘かった。
 以降、部活後の運試しが習慣だ。もちろん、梅にあたることも多く、お隣の飼い猫に構いつけるのも、踏み込みが強くてすぐ痛む靴紐も気にならなくなった頃、大会の前は必ず、苺ジャムにあたることに気付いた。
「苺だったら県大会優勝ね」
 いつものプレッシャーに、コッペパンを二つとも掴んで食べれば。
 どちらも、とても、甘かった。
青春
公開:18/06/09 17:00
更新:18/06/09 08:14

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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