価格交渉

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 旅先の画廊で、気になる絵を見つけた。
 タロットを題材に植物を描いた連作、壁にずらりと並んだうち一枚、愚者と名付けられたフリージアの花絵が欲しい。
 作家の一点物となれば五万は手頃な価格で、0号サイズならそのまま持ち帰れる。
 一枚売りは可能か、画商を呼べば、二つ返事で大丈夫だと言われる。
「でもねぇ」
 ふと表情を曇らせる。
「この黄色はカドミウムで緑は砒素由来、線の甘さもあるし、この色の重ねも……ねぇ。こんなものにお金を出すつもりですか?」
 そう畳みかけられて、売りたくないのかと聞けば違うと首を振る。
「物には適正な値段があるというだけですよ」
 そんな風に値切られて、結局三万で買い、宿に持ち帰った。
 店先であんなに気を惹いたというのに、いざ改めて見るとあちこちに不満が生じ、不安を覚える。
 翌日。帰路につく前に同じ画廊に立ち寄って、引き取って貰った。買い取り価格は、一万だった。
ミステリー・推理
公開:18/06/08 17:00
更新:18/06/08 08:22

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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