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 友人の家の、古い倉には時計が掛かっている。
 剥き出しの梁の交差するところに、小さな目覚まし時計。
 修理の為に預かって、かれこれ十五年、彼処に掛かったままだという。
 電池式ならもっと早くに下ろせるんだけど、ゼンマイ仕掛けは自分でネジを巻くからな、と、溜息。
 そんな昔から自動巻き上げ機能あったのかと感心すれば、首を横に振る。あれは付喪神になった時計で、持ち主を二人殺している。
 目覚まし時計ほど不当な扱いを受ける時計はないんだよ、と友人はこれまた古びた時計のベルを磨きながら嘆息する。
 人の都合で起こせと言い、いざ時間になるとうるさいだなんだで叩かれたり投げられたり。あの時計も鬱憤を溜め続けた九十九年目の朝、長針で旦那を、短針で奥方を刺し殺して永遠に目覚めずに済むようにしたのさ。
 今でも長針と短針はないまんま。でも耳を澄ましてみろよ、体の中で、カッチカッチと時を刻んで生きてるから。
ホラー
公開:18/06/04 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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