古い物には味がある

6
106

 とあるブログの表題だ。
 ジャンルはグルメ、毎日更新される記事には味があり、フォロワーは日に日に増えている。
 記事の内容はほとんど定型で、一日一つ、食べたものに対する感想だ。
 最初の記事は和箪笥。齧り付いた歯形のついた角を大写しに「生は無理。削って出汁を取るとうまい」と添えられている。
 次に緑色の古いラムネ瓶。半分溶けたような硝子に「思った通りに甘い。おやつに最適」とある。
 食べられないものを食べたかのように、そして骨董品ほど美味いという主張がユニークだと、ある日職場の同僚に勧めてみた。
 その日の夜、メッセージが届いた。
「あれ、マジで食ってる」
 何のことかと首を傾げれば、ポーンと明るい音を立てて写真が届く。
 何週間か前の焦げた魚の彫刻の記事、「自在駒はたたきに限る」の写真を拡大し、明度を上げたもののようだ。
 部屋の奥にあったのは、上から削られて半分になった和箪笥だった。
ミステリー・推理
公開:18/06/02 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容