透明な鉛筆

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 とある絵描きが、絵を描く様を配信するという。病を得て余命幾ばくもない彼にとって、そのパフォーマンスと併せて、最期の作品となるだろう。
 当日、カメラの前に現れた絵描きの姿はやつれ衰え、指先は小刻みに震えていた。
 真っ白なカンバスの前には、いつも作品制作に使っているという、小さな丸い木の椅子が据えられている。
 支えられるようにして、ようよう椅子に腰掛けた絵描きは、まるで指揮者のようにして、右手をす、と肩の位置に上げた。
 手には、何も握られていない。だが、確かに何かを支える力強さにぴたりと震えは止まり、見えないペン先が、とん、とカンバスに押しつけられた。
 線を引く、動きに色彩があふれ出す。緑が花が、絶滅した筈の動植物達が配信画面を越えて世界に零れだし、夢のような光景で大地を海を埋め尽くした、後。
 真っ白なカンバスの片隅に「透明な鉛筆」という作品名だけを遺し、彼の姿は消えてしまった。
ファンタジー
公開:18/06/01 17:00

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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