赤い靴と人魚

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「何、その童話と童謡のミックス」
 釣り糸を垂らした海面に集中したまま返事をした僕に、故郷の幼なじみは唇を尖らせた。
「うちの考えたことわざ。絶妙やろ? 豚に真珠、猫に小判、赤い靴と人魚」
「それを言うなら人魚に赤い靴……」
 語呂の悪さに気付いて押し黙ると、彼女はそれみたことかと胸を張った。
「何事も印象操作が大事やねん」
「印象ね」
 彼女は、最近地元産業PRの為にメディアへの露出が多い。
 美人すぎる海女とか、そういう路線で推したい漁協のおじさん達のちょっと古い思惑に、周囲は彼女に方言を改めるよう勧めているそうだが。
 ピクリともしない浮きに目をやったまま、僕は釣りに飽きた彼女が、いつものように業を煮やしてバケツを覗き込むのを待っている。
 中には、赤い靴が一足入っている。
 僕と一緒に陸で生きて下さいと、人魚の彼女への練りに練ったつもりの求婚が、どうか、無駄だと言われませんように。
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公開:18/05/28 20:09
更新:18/05/29 08:17

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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