彼の猫と、彼女の海

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彼は猫を飼い、彼女は海を飼っていた。二人は離れて暮らしていたので時々近況をやり取りした。

猫は元気?
うん。鳥や蜥蜴をくわえてくるよ、海はどう?
海も元気。今日は銀色の船を呑み込んだの。
猫はなぉなぉってよく鳴くよ。
海だってざぅざぅって鳴くわ。
猫の体はよく波打ってる。
海なんかいつも波打ってるわ。

猫は随分大きくなったよ。食べすぎかも知れない。
海も大きくなったわ。海岸線をいくつも食べちゃった。
猫は今夜は静かだ。
海も静かだわ。眠っているみたい。

猫が最近弱ってるんだ。
海も昔より元気が無くなったわ。

彼の猫は一度だけ振り返ると家を出て行った。

猫は死ぬ前に姿を消すんだよ。
海はどうなるのかしら。

やがてその時が来た。
海は猫のように跳ね上がると、蜜柑の皮が剥ける形で地球の重力を引き離した。そして粉々の滴となって、ひとつひとつに地球を映しながらゆっくり遠くへ消えていった。
その他
公開:18/05/26 21:49
更新:18/05/26 21:52

北澤奇実

締切3分前に「やったー!書けたー!!」って思ったら、なぜか改行を含めて500文字ぴったりで、自分のやってる事に驚きました。

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