『潮騒の聞こへる石の事』

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招狐(しょうこ)山の山奥に昔、景陽(けいよう)と云ふ村あり。
村長韋(い)氏の娘、名を紅蕾(こうらい)と云ふ。
紅蕾十四の冬、旅人より海の事を聞けり。
海は無辺の湖にして水塩辛く、始終潮騒のたつ。
海を知らぬ紅蕾、爾来海に焦がれるようになれり。
然れども海を見に行くこと能はず、その心増すばかりなり。
而して心過ぎ、終に紅蕾海を孕みぬ。
月経巡り後、産まれたるは拳ほどの石であった。
紅蕾この石を耳に当て潮騒が聞こへると言ふ。
韋氏、試しに石を耳に当てると確かに石より潮騒の音聞こへり。
加へて、この潮騒の石、振らば中に水のあるやうな音せり。
これは妖狐の憑いたに違ひないと、韋氏鎚を以てこの石を叩き割れり。
やにはに石より海水夥しく溢れ出たり。
村は一夜にして海水に喫まれたと云ふ。

爾来、景陽近辺の石からは潮騒が聞こへると云はれている。

『山怪類聚』より
ファンタジー
公開:18/05/19 18:36

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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