雲の上

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 永眠権。二度と目覚めなくても良い権利を手に入れた。とはいっても、死ではない。
 最新型の雲状寝台の一人きりのモニターになったのだ。
 体重と骨格に副って全身を受け止める、雲を模したナノマシンの塊、呼吸で体内に入り込んで必要な栄養を供給し、代謝で生じた不要な物を取り込んで汗腺から出て行く。食事も排泄も不要なのだ。
 とろとろと夢に沈んだまま、時々むにゃむにゃと何か呟いて目覚めかけ、あぁ、眠っていていい、起きなくてもいいんだと、安堵を味わってまた眠る、そんな安穏に死ぬまで耽溺していて良い権利。まさに夢のようだ、否、人類の夢と言うべきか。
 あぁ、でも。眠ってしまうその前に、気になっていたマンガの続きを読まないと、ドラマも見逃してた、親類縁者に挨拶をして、友達と旅行して遊んでそれからそれから……。

 斯くして、天上の寝台の開発担当者は、今日も呟く。
「……三八七人目の当選者も、来ませんねぇ」
SF
公開:18/02/21 16:35

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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