きみにはなを

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 掌に、花が咲く。
 妻の一族の女性は、体から溢れた感情が、花となって咲く体質を持っている。
 妻は生まれたばかりの娘を抱いて、嬉しさに散らす桃の花弁のくすぐったさに、くすくすと笑い声を零した。
「あなたも抱いてみる?」
 何度となく勧められるが、ぐんにゃりと柔らかくて抱くのはまだ怖い。ぎゅっと握られた小さな拳をつつくのが精一杯だ。
 こんなに小さいのに、爪まできちんと付いている。
 娘の目が開く。まだ像を結べない真っ黒な瞳に自分の姿が映り込み、ぅ、と声にならない音を上げて、幼い手が開いた。
 真っ白に、花びらを幾重にも重ねた珠のような花を咲き誇らせた、重たげな手を伸ばす。
「お父さんに、どうぞって」
 促す妻の言を肯定し、早く受けとれとでも言うように、娘がむぅと口を曲げた。
 ほろほろと、外側から零れ落ちる花弁に、自然と腕が彼女を抱く。
「君に名を。決めないと」
 初めての、花の御礼に。
ファンタジー
公開:18/02/12 08:09

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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