花水

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 その町は、風光明媚を売りにした観光地だった。
 観光収入を主に生計を立てている町の住人は、醜聞や悪評を何より怖れていた。
 ある日、町の少女が鏡のような池で溺死した。
 不運なことに、透明な水底に静かに沈む亡骸を見つけたのは旅行客で、彼らが騒ぎ出すより先に、動いたのは町の花屋だった。
 花屋は店先の花の首を折ると、次々に水面に浮かべ始めた。それに倣って町の人々も、野の花を、木の花を、次々に手折って水の流れに乗せて行く。

 お祭りですよ、春の女神に花を捧げる祭りなのです。

 旅行客も、花屋が手渡す花に疑いを消し、水面を埋め行く花の彩、美しい風景に魅せられて花を水に放り、知らず、少女の姿を隠す手助けをする。
 以来、その町では毎年、花の祭りが執り行われる。
 春を寿ぎ、水面を花を満たす、年々盛大になっていく祭りの主役。
 水底の女神の顔が毎年違うという噂は、花に隠されて確認する術はない。
ホラー
公開:18/02/12 15:07
更新:18/02/12 15:09

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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