『即身桜』

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あの青年もまた、ソメイヨシノにはなれなんだか。
悲しいことだ。わざわざ海を渡ってまで日本に来たというのに。
彼は日本の桜を見て愕然としたそうだ。日本から自国に贈られ、根付いた桜とのあまりの違いに。華の色も香も何もかもが違う。
それもそうだ。宿っている木霊が違うのだ。
そう、ソメイヨシノには皆、木霊が宿っている。それらは、元は人の魂だ。ソメイヨシノは死人によって殖える。
ソメイヨシノが接ぎ木によって殖えるのは周知のこと。死人はその台木となる。
しかし、ただの死人ではあり得ない。百日の間、土を食い、漆を呑み、身体を樹へと近づける。而して後、桜の枝を抱き土中へ入る。肉が樹と一体となり魂が移ったとき新たなソメイヨシノは生まれ出ずる。
あの青年は日本で行を行った。日本人の魂を手に入れるといって。
しかし、生えてきたのはけばけばしい品にかける桜であった。
やはり、ソメイヨシノの魂は日本人に限るのか。
ホラー
公開:18/03/24 22:09
更新:18/04/08 22:23
百鬼夜行シリーズ 妖怪

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

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