魔法使いの卵

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 彼女が、通信教育で魔法の勉強を始めた。
『卵の中身は何でしょう?』
 教材の丸いフォント、大きな表題の横には、step1と記されている。
 卵の中身は当然、卵だ。黄身と白身、それからカラザ。まっとうすぎる常識。それを変える卵の魔法は初歩の初歩。教材が届いて以降、彼女は毎朝緊張の面持ちで、フライパンと向き合っている。
「……ひよこ!」
 コン、と罅を入れた卵を気合の一声と共に、フライパンに中身を割り入れた。
 じゅ、と小気味よい音を立てて落ちる、見慣れた卵は、既に目玉焼きの状態だ。
「またダメだぁ」
 魔法の素質はあるものの、センスに欠けると、卵のイメージから離れられず、変化に乏しい。またもやのDランクに、今日の朝食もエッグトーストかぁ、と落とした肩を頑張れと叩く。
 だから、彼女は気付かない。残った卵の中から花が零れることを。昨日はタンポポ、今日はミモザ。さぁ、いつになったら気付くかな?
ファンタジー
公開:18/03/13 23:02
更新:18/03/14 09:37

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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