国獄(ごくごく)

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気がつくと目の前に閻魔大王。なぜか困り顔だった。
「お前の生前の行いは可もなく不可もない。どうしたものか」
思い出した。くたくたになって一日の仕事を終え、さあ一杯やろうとした帰り道、車に轢かれたのだ。
「天国行きかそれとも地獄か。困ったのう」
なら天国でいいじゃないか。罪なき者を善人と言うのだ。反論しようとした矢先、閻魔が缶を差し出した。
「こうなったらお前の運に尋ねてみるか。飲み損ねたビールの代わりにこれを飲め。美味ければ天国、不味ければ地獄だ」
言われるがまま缶を開けて一気に飲む。春の風のような香りが口の中を満たし、ゴクゴクと喉が歓声をあげ心地よい刺激が渇きを潤した。間違いない。これは天国行きの味だ。

再び気がつくと病院のベッドの上。あれは夢だった?いや、微かに残る香りが鼻から抜ける。
そこで納得した。くたくたになった後に飲んだあれほどうまいビール。
そりゃあ、生き返るに決まってる。
公開:25/11/08 18:19

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