ヒヨコのひげ

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 ジョッキに満たされた黄金の液体。その上には純白の雲のような、柔らかな泡がフワフワと浮かんでいる。ゴクリゴクリと喉を鳴らし、一息に飲み干した。
「ぷはぁ!うまい!」
「あ、パパ、おひげ」
 口の周りに泡の髭ができている。
「そのおひげはなぁに?」
 私はぽくぽくと考える。ちーんと頭に電球が浮かんだ。
「これはね、ビールからできた泡のおひげ。つまり、ビールがニワトリさん、泡はヒヨコさんだね」
 私は舌で泡の髭を舐め取った。髭に見入っていた娘は「ヒヨコさん、食べちゃったの?」と目を丸くした。
「そうだよ。もうすぐパパのお口からヒヨコさんの声が聴こえるよ」
 娘は目を輝かせて私の口元を見つめる。
「あ、ほら……げぇっプ」
 キャーと甲高い声を上げて娘が逃げていく。台所で妻が私を睨んでいる。
 私は肩をすくめると、新しく取り出した1本のプルタブを開けた。プシュッと小気味の良い音が部屋に響いた。
その他
公開:25/11/08 16:53

日日九夏

読むことは長年していましたが、最近は書く楽しさにも目覚めました。書き始めたばかりで拙い文章ですが、読んで頂けたら嬉しいです。
noteでもショートショートや短編小説を投稿しています。こちらも読んで頂けたら嬉しいです?
https://note.com/ukey4121

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