神の耳

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古来より、森家には「神の耳」を持つ者が生まれるとの言い伝えがあった。
その耳は、この世のあらゆる音を聴き分け、将来起こるであろう災厄の音をも聴くことで、民衆を導いてきたという。森麦生はその森家の末裔だった。

「おい、麦生。いつもビールの樽に耳をくっつけて何をしているんだ?」
「ビールの音を聞いているんです」
「ビールの音?」

工場長に対し、口の前に人差し指を立てるジェスチャーをすると、麦生は静かに目を閉じた。

シュワシュワシュワ……
プシュッ、トクトクトクトク
カンパーイ
ゴクゴク、プハァ~
ウマイ、サイコー
ワハハハ。ウフフフ

「うん、大丈夫。この子はみんなに愛される美味しいビールになります」
麦生は嬉しそうに微笑んだ。そんな麦生を見て、工場長は「不思議なヤツだなぁ」と思う。でも、彼が太鼓判を押したビールは必ず飛ぶように売れるので、麦生のことを誰よりも頼りにもしている。
ファンタジー
公開:25/11/08 15:10
更新:25/11/08 23:10

尻野ベロ彦( 東京 )

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。
子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。
「note」にも、細々と500字程度のショートショートを書いています。
https://note.com/sirino

【トピックス】
・第16回「1ページの絵本」入選
・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作
・プチコン5 ~遊園地~ 優秀賞

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