キッチンの会話

うちのおしゃべりレンジの学習能力がめざましい。買って１週間しか経っていないのに余計なことを言い始めるほどだ。
『お待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません』
なんだよ、お待たせし過ぎたかも、って。頼まれた通りきっかり５分で止まったくせに、なにが言いたいんだよ。
「いやちゃんと仕事してるじゃん。なんでそんなに恐縮してんだよ」
返事は期待していなかったが、レンジはちゃんと答えた。
『聞こえなかったと文句を言われたくないからです』
「おれが？　文句を？　あんたに？」
『そうやってすぐキレるのは良くないです。改めてください』
改めるよう言われたところでおれは包丁だ。生まれながらのキレ味を持たされている故、その要望には応えられない。
３度目の『お待たせし過ぎたかも⋯⋯』が流れたところでようやく家の主人が温めて柔らかくなったかぼちゃを取りだした。レンジは皮肉を言ったのだなとおれは思った。