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俺は親父が嫌いだった。
鉄工所を切り盛りして借金まみれだった親父が嫌いだった。
旋盤から飛び散る金属の粉で、爪が常に真っ黒だった親父が嫌いだった。
その金物臭い手で俺を子供扱いして、頭を撫でる親父が嫌いだった。
仕事終わりに背中を丸めてビールをチビチビ飲んでいる親父が嫌いだった。
頭がよかった俺は、この状況から抜け出してやる、いつもそう思っていた。
俺は有名大学に受かったが金がないから、特待生で授業料免除を受けた。
バイトでも何でもして食いつないでやる。
そんな出発の朝。
黙って家を出ようとしたが、工場の入り口に親父が立っていた。
「これ、少ねぇけど、チビチビ貯めたんだ。使ってくれ。」
親父がよこした通帳には、俺が4年間バイトなしで暮らせるだけの額が入っていた。
「そんな、ずるいじゃねぇか親父。」
立ち尽くす俺に親父は
「泣くなよ、チビ。頑張れよ。」
そう言って、俺の頭を何度も撫でた。
公開:25/11/09 19:08
更新:25/11/09 22:11

イロイロアッテナ( 西日本 )

初めまして、イロイロアッテナと申します。
趣味で小説を書いて、たまに賞やコンテストに投稿したりしています。
少しずつ、ゆっくり投稿していきますので、拙作ですか、どうぞ、よろしくお願いします。

※noteもやってます。
アカウント名は「イロイロアッテン」です。
「イロイロアッテナ」は、すでに他の方が使用されていたため。

 

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