ビールの神様

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 プクプクプク。黄金の海に人魚の泡が立ちのぼる。
 パチパチパチ。はじける豊かな香り。私は勢いよくジョッキを傾ける。
 実はお酒は少し苦手だ。すぐに酔ってしまうから。顔が真っ赤になって恥ずかしい。でも今はそんなことを言ってられない。
 ゴクゴクゴク。喉を滑っていく液体。まもなく胸が熱くなる。
 今こそ告白するんだ。がんばれ、陸にあがった人魚姫。
「え? なに? どうかしたの」
「あっ、ううん。別に何も」
 まだだめだ。片想いの王子に愛を告げるには、こんな量じゃ足らない。
「おかわりお願いします」
 店員さんに声を掛けて、新しいジョッキを持って来てもらった。
「そんなに飲んで大丈夫なの」
「うん、平気平気」
 本当はぜんぜん平気じゃないんだよ。泣きたい気持ちを笑いでごまかす。
 ああ、ビールの神様。私に勇気を与えて下さい。あきらめて泡になっちゃう人魚姫は嫌なんです。
「おかわりお願いします」
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公開:25/11/09 18:34

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