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飼い音のグビがいなくなってから、俺のビールに『飲み』がたかり始めた。
音符に脚が生えた吸音害虫で、酔っ払いに寄生して酒盛りの音を飲むらしい。おかげでどのビールを空けても何の音もしなくなった。
音ロスなんて俺には無縁と思っていた。プルタブ型のグビ輪を指にはめ、無音の缶ビールに爪を立てる。スカっと気の抜けた手応えで、飲み口と俺の心に風穴が開いた。
老衰だと音医に言われた。
晩酌の度、豪快な喉越しで気持ち良く酔わせてくれた。とびきり盛大で美味そうなグビグビが、近頃は杯を重ねるにつれ、ゴクゴク、チビチビと小さくなった。内心物足りなさを感じながら、気付いてやれなかった。音にも老いや死があると知っていたら、もっと大事に飲んだだろうに。
コクンとかすかな余韻を最後に、グビは二度と俺の喉を鳴らさなくなった。
飲みに音を飲まれたんだ。喪失感をごまかす様に味気ないビールを流し込む。
ズビ、と鼻が鳴った。
音符に脚が生えた吸音害虫で、酔っ払いに寄生して酒盛りの音を飲むらしい。おかげでどのビールを空けても何の音もしなくなった。
音ロスなんて俺には無縁と思っていた。プルタブ型のグビ輪を指にはめ、無音の缶ビールに爪を立てる。スカっと気の抜けた手応えで、飲み口と俺の心に風穴が開いた。
老衰だと音医に言われた。
晩酌の度、豪快な喉越しで気持ち良く酔わせてくれた。とびきり盛大で美味そうなグビグビが、近頃は杯を重ねるにつれ、ゴクゴク、チビチビと小さくなった。内心物足りなさを感じながら、気付いてやれなかった。音にも老いや死があると知っていたら、もっと大事に飲んだだろうに。
コクンとかすかな余韻を最後に、グビは二度と俺の喉を鳴らさなくなった。
飲みに音を飲まれたんだ。喪失感をごまかす様に味気ないビールを流し込む。
ズビ、と鼻が鳴った。
その他
公開:25/11/07 13:36
クラフトビールコンテスト③
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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創樹