音のおつまみ

一月二日午前六時。歯磨きもそこそこに、冷蔵庫を開ける。
「いいこと、あななたち。昨夜のシミュレーション通りにするのよ」
「承知！」
冷蔵庫から飛び出した材料が各自の持ち場に散る。左奥のコンロでもつ煮がコトコト。右奥のコンロではおでんがグツグツ。右手前のコンロで唐揚げがジュワーっと揚がり、左手前のコンロでポップコーンがポポポポポンと一斉に弾ける。おでんにハンペンが飛び込んだ。グツグツだった音がクツクツに変わったら完成。完璧。思わずパチパチと手を叩く。
各料理をテーブルに並べ、おでんを一口。うわっ大根熱っ。ホフホフと口を半開きにしながらなんとか飲み込む。テレビをつけると襷をかけた選手たちが既にスタートラインに並んでいる。慌てて冷蔵庫から缶ビールを出す。
10秒前
5秒前
パーン。　シュポッ。
号砲と共にビールを開ける。ゴクゴク、ゴクゴク。選手の歩幅に合わせて喉を鳴らす。
私の正月が始まった。