グビリの発見

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 出島の茶房にて、舶来の「ビイル」とやらを前に、二人の男女が額を寄せていた。阿蘭陀通詞・五郎兵衛から譲り受けたはいいが、飲み方を訊くのを忘れてしまったのだ。

「まずは常温で飲んでみよう」お綱はそう言って、小判色の液を一口、チビリと喉に送って顔をしかめた。
「苦いばかりで、酒とも茶ともつかないねえ」

 儒学者の宗十郎は頷きながら言う。
「温めてみよう。異国の酒も、陰陽をわきまえんといかん」
 湯気の立つ茶碗を、ふうと吹きながらズズズとすする。口に含んだ表情は学者のそれだ。
「気が抜けた味だな。理は学べど、道は遠し」

 そこへ件の五郎兵衛が汗を拭いながら飛び込んできた。
「暑うてたまらん!氷はあるか?」
 注がれたビイルは、氷に触れて淡い泡を立てる。五郎兵衛は一息に、グビリグビリと飲み干した。喉が鳴り、顔がほころぶ。

 お綱と宗十郎は顔を見合わせ、声を合わせて呟いた。
「――これだ!」
その他
公開:25/11/08 14:38
更新:25/11/09 00:05

たかきだ ほむら( 夜と昼のあわいに )

べんきょうちゅう。

ショートショートガーデン コンテスト クラフトビールコンテスト「癒」 【ハーフパイント賞】

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