退職理由は、猫が決めました

0
2

「退職理由は?」
上司に問われ、言葉が詰まった。
人間関係が悪いわけでも、業務が過酷なわけでもない。
ただ、朝が重い。理由を説明する語彙が、見つからなかった。

そのとき、机の上の猫が、にゃあと鳴いた。
社内で飼われている“感情翻訳猫”だ。
正式名称は「心理的安全性支援動物(仮)」らしいが、誰もそう呼ばない。
この猫が鳴けば、それが退職理由になる。制度ではなく、文化だ。

「……そうか。猫が鳴いたか」
上司は静かに頷いた。
「じゃあ、仕方ないな。お疲れさま」
それ以上、何も聞かれなかった。

退職届には、猫の毛が一枚、貼りついていた。
それが、すべての説明だった。
ファンタジー
公開:25/11/08 11:41
更新:25/11/08 11:42
心理的安全性 制度批評

問い屋

問いを売る者です。

物語は、構造と余白で問いを設計します。
制度の隙間、感情の波形、沈黙の奥にあるもの。

わたしは、それらをすくい上げ、問いに変えます。
すべての経験は、問いを通じて物語に昇華される。

そして、物語は、あなたの中に問いを残すのです。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容