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「退職理由は?」
上司に問われ、言葉が詰まった。
人間関係が悪いわけでも、業務が過酷なわけでもない。
ただ、朝が重い。理由を説明する語彙が、見つからなかった。
そのとき、机の上の猫が、にゃあと鳴いた。
社内で飼われている“感情翻訳猫”だ。
正式名称は「心理的安全性支援動物(仮)」らしいが、誰もそう呼ばない。
この猫が鳴けば、それが退職理由になる。制度ではなく、文化だ。
「……そうか。猫が鳴いたか」
上司は静かに頷いた。
「じゃあ、仕方ないな。お疲れさま」
それ以上、何も聞かれなかった。
退職届には、猫の毛が一枚、貼りついていた。
それが、すべての説明だった。
上司に問われ、言葉が詰まった。
人間関係が悪いわけでも、業務が過酷なわけでもない。
ただ、朝が重い。理由を説明する語彙が、見つからなかった。
そのとき、机の上の猫が、にゃあと鳴いた。
社内で飼われている“感情翻訳猫”だ。
正式名称は「心理的安全性支援動物(仮)」らしいが、誰もそう呼ばない。
この猫が鳴けば、それが退職理由になる。制度ではなく、文化だ。
「……そうか。猫が鳴いたか」
上司は静かに頷いた。
「じゃあ、仕方ないな。お疲れさま」
それ以上、何も聞かれなかった。
退職届には、猫の毛が一枚、貼りついていた。
それが、すべての説明だった。
ファンタジー
公開:25/11/08 11:41
更新:25/11/08 11:42
更新:25/11/08 11:42
猫
心理的安全性
制度批評
一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。
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問い屋