天国と乾杯

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「笑顔の写真をお願いします」
葬儀スタッフにせかされ、棚や押し入れを引っかき回す。
だが、なかなか良い写真が見当たらない。

親父はいつも写真を撮る側だったのだ。
その役割を当たり前のように押しつけていたのだと今さら気づく。
古いデジカメを探していると、真っ黒な動画が出てきた。
『……グビ、グビ、ぷはあ』
日付は家族で旅行したときのものだ。
何かの拍子に録画ボタンを押してしまったのだろう。
それはまさに親父の音だった。

バタバタと葬儀を終え、ようやく家族で一息つく。
遺影は結局、免許証の写真を無理やり笑顔にしてもらった。
最近はAIで何でもできるらしい。
「ごめんな、親父」
グラスを二つ出して、ビールを注ぐ。
「乾杯」
ふと思い立って動画の再生ボタンを押してみた。
……グビ、グビ、ぷはあ。
『……グビ、グビ、ぷはあ』
親父が旨そうに飲む顔が浮かんでくる。
二人の音は驚くほどよく似ていた。
ファンタジー
公開:25/11/08 11:40

てぃーえむ

さすらいのショートショートガーデニスト。

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