◯獄クラフト

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仕事帰り、まず向かうのは冷蔵庫だ。今日は散々だった。過剰な期待に理不尽な叱責。大変な思いをしたけど、あいつが待っている。
扉を開けて缶を手に取る。プシュ、とフタを開けグラスに注ぐと、小さく弾ける泡の音。
「苦っ」
ひと口飲んで驚いた。ビールってこんな味だったっけ?まるで今日の縮図。例えるなら地獄。
苦味を反芻しながら、改めて1日を振り返る。
「……そういや、いいこともあったんだよな」
落ち込んでいる姿を見て、声をかけてくれる同期に、フォローしてくれる先輩。思い出すと少し心が緩んだ。
そしてふた口め。
「あれ?さっきと違う」
鼻へ抜ける香りにほんのりとした甘み。さながら天獄のよう。
本当にただのビールか?不思議に思い、ラベルを確認する。
 ◯獄クラフト 酸いも甘いも貴方次第
「確かに、天獄と地獄の間でしか、たぶん生きていけないもんな」
そう呟いて、さん口め。ゴクゴク、泡が喉を包んでいく……
その他
公開:25/11/08 10:56
更新:25/11/08 23:32

湯水こん

よろしくお願いします。

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