ゆびんゆびぃる

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目的も無く、ただ懐かしさを辿る様に路地裏を歩いていると【ゆびんゆびぃる】と書かれた店を見つけた。親指形の扉を開くと並んでいたのは…

指、指、指
いや、指形の瓶ビールだ。

「ゆびぃるは初めて?」

僕より年下にも年上にも見える店主が微笑んだ。

「…はい」
「どうぞ」

有無を言わさず注がれたひとさしゆびぃる。口付けると「あっち!」と急かされる様な音で喉を引っ張られた。

「どう?」
「……」

その時、味の感想も答えず一本のこゆびんに釘付けになった。そのこゆびんが僕の小指を艶めかしく絡め取るイメージが離れない。

「…この子?」

気付いた店主が妖艶なこゆびんを手に取り試飲させてくれた。「ねぇ…」と誘う様な音で擽る甘い喉越し。即決だった。

「大切に飲みます」
「その約束守ってね」

恍惚としていた僕に店主が囁く。

「破ったらこゆびぃるは針になり、一本残らず貴方に飲ませるだろうから」
その他
公開:25/11/08 09:31
更新:25/11/08 17:27
指切りげんまん

ネモフィラの旅人( 風の向くまま )

旅人なのでいたりいなかったりします

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